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広島高等裁判所松江支部 昭和61年(ネ)42号 判決

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  申立

一  控訴人

主文同旨。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  主張及び証拠

当事者双方の主張及び証拠関係は、控訴人において、控訴人が本件根抵当権の実行として昭和五六年一〇月一六日本件土地につき松江地方裁判所に競売の申立をし、昭和五七年三月二三日みずから本件土地を代金九五一〇万円にて買受の申出をし、同月二六日売却許可決定を受け、同年四月二二日同裁判所に右代金を納付し、翌日本件土地につき右売却を原因とする所有権移転の登記を受け、その有する債権に対する弁済金として同年六月一七日右売却代金中四一二三万二三九一円の交付を受けたことは認める、と陳述したほか、原判決事実摘示及び当審証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  乙第四号証、甲第一号証の三の各存在、成立に争いのない乙第二、第五号証、原審証人福田忠雄(第一、二回)、原審及び当審証人福田幸子の各証言、原審(第一、二回)及び当審における被控訴人本人尋問の結果を総合すれば、訴外白鳥製綿有限会社(以下「訴外会社」という)代表取締役福田忠雄は、昭和五三年一一月以来控訴人から合計三五〇〇万円に及ぶ多額の融資を受け、その担保として訴外久保田〓(福田忠雄の妻幸子の父)所有の松江市西川津町字川部田一五一五番雑種地一八九七平方メートル(以下「本件土地」という)に根抵当権を設定することとし、権限なくして久保田〓を代理し、昭和五四年八月二〇日控訴人との間に恣に本件土地につき極度額四〇〇〇万円、債権の範囲金銭消費貸借取引等、債務者訴外会社なる根抵当権設定契約を締結し、同年一一月一〇日その旨の登記を経由したことが認められ、本件根抵当権設定契約は福田忠雄の無権代理行為にほかならず無効であるといわねばならない。乙第四号証(根抵当権設定契約書)、甲第一号証の三(根抵当権設定登記委任状)中久保田〓作成名義の部分は福田忠雄の偽造文書であるから採用しがたく、原審及び当審における控訴人本人の供述中以上の認定に反する部分は信用できない。そして他に前記認定を左右するに足る証拠はない。

二  しかるところ、控訴人が本件根抵当権の実行として昭和五六年一〇月一六日本件土地につき松江地方裁判所に競売の申立をなし、昭和五七年三月二三日みずから本件土地を代金九五一〇万円にて買受けの申出をし、同月二六日売却許可決定を受け、同年四月二二日同裁判所に右代金を納付し、翌日本件土地につき右売却を原因とする所有権移転の登記を受け、その有する被担保債権に対する弁済金として同年六月一七日右売却代金中四一二三万二三九一円の交付を受けたことは当事者間に争いがない。

三  そして、成立に争いのない甲第二号証によれば、訴外久保田〓は昭和五三年六月一二日公正証書遺言によりその財産の全部を自己の長男である被控訴人に包括遺贈したことが認められ、右訴外人が前記競売手続中の昭和五七年二月二八日死亡したことは当事者間に争いがないから、被控訴人は同日遺贈により本件土地の所有権を取得したものというべきである。

四  被控訴人の主張は、要するに、控訴人は、無効な本件根抵当権の実行により、被控訴人をして本件土地の所有権を喪失せしめ、前記売却代金の交付を受けて不当にこれを利得したというにある。なるほど、根抵当権の実行としての不動産競売において、競売を申し立てた根抵当権者が買受人となつた場合でも、代金の納付による買受人の不動産の取得は、民事執行法一八四条の規定により、根抵当権の不存在により妨げられないものと解されるから、被控訴人は、昭和五七年四月二二日控訴人が代金を納付した時に本件土地の所有権を喪失したものといわなければならない。しかしながら、債務者甲が権限なくして所有者乙を代理し、債権者丙に対する自己の債務の担保として、丙に対し乙所有の不動産につき根抵当権を設定した場合において、丙の根抵当権の実行による競売の結果、乙が不動産の所有権を喪失し、丙が弁済金の交付を受けて甲の丙に対する被担保債務が消滅したときは、法律上の原因なくして乙所有の不動産により不当に利得した者は、債務者甲であつて債権者丙ではない。してみれば、債権者たる控訴人に対し不当利得として前記弁済金の返還を求める被控訴人の本訴請求は失当としてこれを棄却すべきである。

よつて、被控訴人の請求を認容した原判決は失当であるから、民訴法三八六条により原判決を取り消し、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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